職場における神経発達症(発達障害)

神経発達症(発達障害)がメディアなどで取り上げられて認知されるのに伴って、

職場における困りごとの原因が神経発達症(発達障害)だと考えられることがあります。

 

神経発達症(発達障害)の診断は専門家でも難しいことが多く、簡単ではありません。1)

 

 

 

ASD(自閉スペクトラム症)では他者の気持ちを察することが苦手、興味や行動に偏りがあるなどの特性が困りごととなることもありますが、

細かい作業ができる、集中力が高いなど、適性が合えば高い能力を発揮するとも考えられます。

ADHD(注意欠如・多動症)では集中することが苦手、他の刺激で注意がそれる、忘れっぽいなど、仕事をするうえで困りごととなる特性もありますが、

創造的な仕事ができる、観察力が鋭いなどと見られる場合は高い評価に結びつきます。2)

 

 

また、同じ行動であっても、業種や職種、立場、企業風土などによって受け入れられるものが異なり、

困りごとが生じることもあれば、そうでないこともあります。3)

 

 

神経発達症(発達障害)の特性に対しては、職場環境の調整や周囲のサポートなどが非常に重要です。

一人ひとりが能力を発揮できるような職場となれば、神経発達症(発達障害)の人のみならず、全ての人にとって、

働きやすく、生産性の高い職場になっていくでしょう。4)

 

一般従業員を主な対象に、精神障害・神経発達症(発達障害)への理解を深めるための講習会として、

「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」が開催されています。

e-learningも活用できます。5)

神経発達症(発達障害):一人ひとりが能力を発揮できる職場

職場において支援をされる方へ

職場における対応1,6)

まずは、普段からできる範囲の配慮(職場環境の調整)を行います。

仕事に合わせた作業ペースの調整ができることや、生活に合わせた勤務形態の配慮、

仕事の役割や責任を明確にすることなどです。

これらの配慮で解決できなければ、職場として障害を前提とした合理的配慮を行います。

 

職場での対応だけでは十分な就労環境を作れない場合に初めて医療に結び付けることを検討します。

業務の中で起こっている問題で、困った状態や周囲への影響(「事例性」といいます)や個人の特性のために就労に影響があること、その改善のために専門医の援助を受けるという姿勢が大切です。

その人の現状に合わせた支援を考えることが重要です。

 

ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)は併存することも多いことから、ADHD(注意欠如・多動症)症状から生じている困りごと、

ASD(自閉スペクトラム症)症状から生じる困りごとが混ざって発生することもあります。

 

ASD(自閉スペクトラム症)では特性が多様であることに加えて、本人のこれまでの経験、能力や性格、業務、職場の環境により修飾を受け、さまざまな困りごとが生じることがあります。

これらを整理してみることで、対応の方法を検討する参考になります。

診断がつかない場合でも、本人と職場で困りごとが生じているのであれば、環境調整が必要です。

配慮については本人との話し合いと合意のうえで実施します。

職場と本人がお互いの考えを十分に話し合ったうえで対応を決めていくことが、欠かせません。

職場での配慮の例もご参照ください。

ジョブコーチ支援事業について7)

ジョブコーチは神経発達症(発達障害)の人が、仕事を遂行し、職場に適応することを助けてくれます。

本人に対する職場内のコミュニケーションなどに関する支援だけでなく、事業主に対しても特性に配慮した雇用管理などに関する支援を行います。

ジョブコーチが行う支援は、事業所の上司や同僚による支援(ナチュラルサポート)にスムーズに移行していくことを目指しています。

 

地域障害者職業センターに配置するジョブコーチによる支援のほか、就労支援ノウハウを有する社会福祉法人などや事業主が自らジョブコーチを配置し、ジョブコーチ助成金を活用して支援する場合があります。

本人の支え方8)

神経発達症(発達障害)を持つ方は、社会生活で問題となる部分、苦手な部分について自分なりに工夫して対処しています。

苦手な部分に対してこれまでに何度も責められて傷ついていることが多く、

苦手な部分を自分で見つめ直すこと自体が大きなストレスになるため、

意識しない、無視することで平穏を保っていることもあります。

このような場合、周囲から見ると問題があるのに、本人が認識していないことが多いです。

 

このような場合においても、困った状態や周囲への影響(事例性)に基づいて説明をすることで、本人と問題を共有しやすく、

目標を具体的に示せることで、改善への意欲が高められることがあります。

客観的に問題を整理し、社内の健康管理部門や外部の専門家につなげていきましょう。

神経発達症(発達障害):職場:本人に伝える

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【参考】

【参考】
1) 森晃爾ほか編著. おとなの発達障がいマネジメントハンドブック. 東京, 労働調査会, 2021, pp.19, 56-68.

2) 森晃爾ほか編著. おとなの発達障がいマネジメントハンドブック. 東京, 労働調査会, 2021, p.97.

3) 森晃爾ほか編著. おとなの発達障がいマネジメントハンドブック. 東京, 労働調査会, 2021, p.18.

4) 森晃爾ほか編著. おとなの発達障がいマネジメントハンドブック. 東京, 労働調査会, 2021, pp.7-8, 19.

5) 厚生労働省. 精神・発達障害者しごとサポーター.  https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shigotosupporter/index.html [2022年8月4日アクセス]

6) 森晃爾ほか編著. おとなの発達障がいマネジメントハンドブック. 東京, 労働調査会, 2021, pp.28-31.

7) 厚生労働省. 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.html [2022年8月4日アクセス]

8) 森晃爾ほか編著. おとなの発達障がいマネジメントハンドブック. 東京, 労働調査会, 2021, pp.17-22.


監修(五十音順)

医療法人南風会万葉クリニック 子どものこころセンター絆 センター長 飯田 順三 先生

国立大学法人信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室 教授 本田 秀夫 先生

社会医療法人啓仁会堺咲花病院 副院長 村上 佳津美 先生