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お子さんの特性について、誰に相談したらよいかわからない、家族の理解が得られない、
園や学校の先生に伝えにくいなど、悩みを抱えてしまっていませんか。
専門家への相談に加えて、同じ悩みをもつ保護者やご家族の経験談がヒントになったり、
孤立感の軽減や、お子さんと向き合う際の気持ちのゆとりにつながったりすることがあるかもしれません。
保護者や家族が互いに支え合う活動の一つにペアレントメンターや親の会(ピアサポーター)があります。
お子さんのケアを一時的に代行することにより、新たな気持ちで子育てに向き合うことを可能にするための支援として、
レスパイトの提供があります。
短期入所など、提供されている支援や実施機関は自治体によって異なります。
また、小学校~高校生のお子さんの放課後・長期休暇中の預かりとして
放課後等デイサービスなどの福祉サービスを利用することができます。
神経発達症(発達障害)をもつお子さんのきょうだい(兄弟姉妹)への支援についても注目されています。
きょうだいの神経発達症(発達障害)に関する受容や、
神経発達症(発達障害)をもつお子さんとの関係、将来に対する考え方など、
きょうだいの抱えている問題に対して支援していくことが重要と考えられています。5)
レスパイトの支援を受けている間に、きょうだいにもしっかりと向き合える時間をつくることができます。
お子さんとのかかわり方を考える上では、どんな特性があるのか理解することが重要です。
特性は重複することがありますし、特性の出方に強弱もあります。
視覚や聴覚などの感覚が過敏で、日常生活で困りごとを感じている場合もあります。
専門家と相談しながら環境を調整し、苦手なことは苦手なりに工夫して、
得意なことはさらに伸ばしていくことで、お子さんに合った生活ができるようになります。
子ども時代の環境によって、その後の成長の仕方は大きく変わります。
● できたことをほめる
できないことや失敗したことを責めたり、叱ったりすると、自信をなくしてしまったり、
他の人や社会のせいにして攻撃的な行動傾向が強まったりすることがあります。
努力していることやうまくいっていることをほめた上で、
できなかったところはどのようにすればもっと良くなるかを、肯定的、具体的に伝えましょう。
● 目で見てわかる情報を提示して説明する
言葉で言われるよりも、目で見てわかる情報の方が理解しやすい場合があります。
お子さんが理解している言葉を使い、写真や絵などを使って説明しましょう。
● 説明や指示は短い文で、順を追って、具体的に
曖昧な表現を理解するのが苦手なことがあります。
言葉で説明するときは、短い文で、一つずつ順を追って、具体的にしましょう。
● 安心できる環境を整える
感覚が過敏で人混みや大きな音、光などの刺激を苦手とする場合があります。
刺激による不快感を大きくしないよう、安心できる環境を整えましょう。
● 善悪やルールを具体的に教える
暗黙の了解や社会のルールがわからないことがあります。
注意したり、叱ったりするだけではなく、具体的にどうするとよいかを伝えましょう。
大人から見たお子さんの困った行動の背景に、発達の特性があることはまだ十分に認知されていません。
そのため、手に負えなくなって叱責や罰を与え、関係が悪化し、お子さんの自己肯定感が下がってさらに問題行動につながるというマイナスの循環になります。
お子さんをどうやってサポートするかを考え、行動の観察から、好ましい行動に注目を与え、お子さんの自信を回復させて好ましい行動を増やすプラスの循環に変えていくことが重要です。
ペアレント・トレーニングは、お子さんの行動を理解し、対処法を学んで身に付けるためのプログラムです。
ペアレント・トレーニングは国内外で有効性が示されており、医療機関に加えて、児童相談所、地域の保健機関、親の会、教育機関などでも実施されています。
新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症が流行しているとき、感染症の予防のための対策が必要なことはわかっていても、
お子さんの特性により難しいことがあるかもしれません。
対応の例をまとめていますので、ご参照ください。
●手洗いをつい忘れてしまう
・食卓のテーブルや帰宅時の靴箱などに手洗いマークをつけておく
・手洗いまでの生活の動線を見直して、まず手洗いに行きやすい動線を作る
・手洗いをしたらポイントがたまるなどの頑張り表の導入
●手洗いが止まらなくなる
手洗いを始めるといつ終わっていいかわからないお子さんもいます。
「ハッピーバースデイ」の歌を2回歌うのがちょうどいい長さと言われています。
・「ハッピーバースデイ」の歌を2回終わったところでやめられたら褒めることを繰り返す
・頻回に手を洗う場合には、手洗いのタイミングを明確に伝える
●マスクをつけるのを嫌がる
感覚過敏のあるお子さんでは、マスクが非常に苦痛に感じることがあります。
WHOの「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における感染予防と管理:実践ガイドライン」14)においては、
「発達上の障害や他の障害、またはマスク着用に支障をきたす可能性のある特定の健康状態をもつ子どもに対しては、マスクの使用を強制するべきではない」
「フェイスシールドなどのマスク着用に代わる選択肢を与えるべき」としています。15)
マスクの着用が難しい場合は、人ごみに行かないなどのソーシャルディスタンスを心がけましょう。
「マスクをつけられません」バッジなどを活用すれば、周囲の人に理解してもらいやすいかもしれません。
まずは、マスクのどこが嫌そうなのか観察し、対応を考えてみましょう。
・マスクの耳にかける部分が痛い場合:耳にはかけない形のマスクを試してみる
・マスクの布の部分が不快な場合:別の素材のマスクを試してみる
・マスクのにおいが不快な場合:マスクによって触感、においなどいろいろ違うため、いくつかのメーカーを試してみる
●何度言ってもいつの間にかマスクを外してしまう
どのような場面でマスクを外してしまっているのか観察してみましょう。
・感覚が不快な場合:「マスクをつけるのを嫌がる」の項目をご参照ください
・食事場面で外してそのまま忘れているなど:食卓にリマインダーを貼っておく、食事後に声をかける、気づきやすい場所にマスクを置いておく
●マスクを外すタイミングがわからない
・運動の時は外すなど、具体的に外すタイミングを指定する
・マスクをした方がいい場所、しなくていい場所を視覚的に示す
●適切な距離感(ソーシャルディスタンス)を伝えることが難しく、距離を保って行動することが難しい
待機する場所がわかるようにしたり、狭い場所については「前にいる人が〇人になったら進む」「中にいる人が〇人になったら入る」などお子さんが理解しやすい指示をしたりしましょう。
感染症対策についてはこちらもご参照ください。
神経発達症(発達障害)の診断を、本人に、いつ、どのように伝えるかは、とてもデリケートな課題です。
本人に伝えることの意義を確認しながら、伝えるタイミングや、どのように伝えていくかを考えます。
本人に診断を伝えるのは、本人が自分自身の特性について理解し、自信をもって生活していけるようになるためです。
神経発達症(発達障害)の特性を理解してもらえずに、小さい頃から注意されたり、叱られたりすることが重なり、自信をなくしていることがあります。
自身の特性を理解することで、これまでにうまくいかなかったことを振り返り、
これからどうしたらよいか考えるきっかけとなります。
周囲の同年代の子どもとの違いに気づき始めた学童期、学業や友人関係につまずいた思春期などは、
自身の特性を理解することが力になる時機と考えられます。
本人が普段から気づいている気持ちや具体的な特徴を例にとって説明することで、理解が深まるかもしれません。
具体的な診断名を伝えるときは、同じ診断名でも一人ひとり違っていることや、
診断がある人とない人とははっきり区別できるものではなく、
診断がない人の中にも同じような特性を持つ人がいることも伝えるとよいでしょう。
苦手なことは見方を変えれば強みになる場合もあること、
苦手なことやわからないことは、周りに伝えればよいことも伝えましょう。
自分への気づきとこれに基づく困りごとの相談、自分にとってよりよい選択・決定などができる自己理解は、
子どもの自立に向けた力を育む上で重要と考えられています。
以下は小・中・高等学校の通級において、自己理解に関する指導・支援のポイントとして独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所の研究成果報告書にまとめられたものですが、家庭におけるお子さんとの向き合い方にも参考になるのではないでしょうか。
お子さん自身がなりたい自分について考えるところが出発点となります。
そして、自分の良いところや課題となるところを理解し、対応の仕方を検討していきます。
成功体験を積み重ねていくことで、自信をもてるようになり、自己肯定感が高まります。
お子さんの課題を説明することに加えて、体験を積む機会を設けることが重要です。
そうすると、自分の課題となる点にも向かい合うことができ、
対応方法の検討や練習へのモチベーションになると考えられます。
自分の意見を他の人に伝えたり、自分で選んだりする権利を守るためには、
自分の苦手なことや必要なサポートを理解していることに加えて、
自分自身で周りの人に伝えて理解してもらうこと(セルフアドボカシー(自己権利擁護)といいます)も大切です。
以下を参考に考えて、自分で伝えてみましょう。
・どんなことが得意ですか?
・どんなことが苦手ですか?
・どんなときに、どんなサポートがあったら自分の力が出せますか?
・なぜそのサポートが必要ですか?
【参考】
1) 厚生労働省. 障害者支援施策の概要.発達障害児者および家族等支援事業(都道府県、市町村)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hattatsu/gaiyo.html [2024年7月3日アクセス]
2) 厚生労働省. 今後の障害児支援の在り方について(報告書)~「発達支援」が必要な子どもの支援はどうあるべきか~.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000051490.pdf [2024年7月3日アクセス]
3) 国立障害者リハビリテーションセンター・発達障害情報・支援センター, 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター. 発達障害ナビポータル. 保護者や家族同士のつながり.
https://hattatsu.go.jp/person_family/parents_family/parents-and-family-connections/ [2024年7月3日アクセス]
4) 国立障害者リハビリテーションセンター・発達障害情報・支援センター. 家族支援.
http://www.rehab.go.jp/ddis/howto/parents/ [2024年7月3日アクセス]
5) 桑山友里. 中京大学心理学研究科・心理学部紀要. 第17巻第1号, 2017, p.63.
6) 田中康雄監修. イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本. 東京, 西東社, 2014, pp66, 82-84.
7) 本田秀夫. 発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち. 東京, SBクリエイティブ, 2018, pp38-39, 66-67.
8) 本田秀夫. あなたの隣の発達障害. 東京. 小学館, 2019, p.54.
9) 政府広報オンライン. 発達障害って、なんだろう?.
https://www.gov-online.go.jp/featured/201104/index.html [2024年7月3日アクセス]
10) 太田豊作ほか. 最新医学別冊 診断と治療のABC130 発達障害(神尾陽子企画). 大阪. 最新医学社. 2018, pp.165-172.
11) 大阪大学大学院 連合小児発達学研究科附属 子どものこころの分子統御機構研究センター. はじめての相談から災害への備えまで!発達の気になる子どものこころとからだのまもり方. 2022.
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kokoro/Support%20book.html [2024年7月3日アクセス]
12) 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所. 発達障害教育推進センター. 学校現場におけるコロナ対策の工夫など.
http://cpedd.nise.go.jp/katsudo/festa/r2/new_normal/taisaku [2024年7月3日アクセス]
13) 国立障害者リハビリテーションセンター・発達障害情報・支援センター. 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う発達障害児者および家族への影響―当事者・家族向けアンケート調査結果よりー. 令和3(2021)年1月. pp25, 26.
http://www.rehab.go.jp/application/files/6316/1102/0298/202101.pdf [2024年7月3日アクセス]
14) WHO, Infection prevention and control in the context of coronavirus disease (COVID-19): a living guideline. 2023, pp48-51.
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-ipc-guideline-2023.1 [2024年8月6日アクセス]
15) 厚生労働省, マスク等の着用が困難な状態にある発達障害のある方等への理解について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14297.html [2024年7月3日アクセス]
16) 国立障害者リハビリテーションセンター・発達障害情報・支援センター. 本人に伝える.
http://www.rehab.go.jp/ddis/howto/diagnosis/affected/ [2024年7月3日アクセス]
17) 海津亜希子. 社会とのつながりを意識した発達障害等への専門性のある支援に関する研究―二次的な障害の予防・提言に向けた通級による指導等の在り方に焦点を当ててー(令和元年度~2年度)研究成果報告書. 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所. pp.28,33,125.
http://www.nise.go.jp/nc/report_material/research_results_publications/specialized_research/b-372 [2024年7月3日アクセス]
18) 国立成育医療研究センター. セルフアドボカシーー僕たち・私たちの権利を考えよう.
https://www.ncchd.go.jp/news/2020/leaflet13.pdf [2024年7月3日アクセス]
監修(五十音順)
医療法人南風会万葉クリニック 子どものこころセンター絆 センター長 飯田 順三 先生
国立大学法人信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室 教授 本田 秀夫 先生
社会医療法人啓仁会堺咲花病院 副院長 村上 佳津美 先生