インフルエンザ − インフルエンザへの理解を深め、正しい知識や予防法を身につけましょう!

ご自身やご家族の症状について、心配や疑問を持たれた場合には、ご自分で判断されずにお医者さんにご相談ください。

監修:日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 池松 秀之 先生

インフルエンザとは

インフルエンザとは、インフルエンザウイルスに感染して起こる感染症です 1) 。インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型、D型の4種類に分けられます。主にヒトに流行を起こすのは、A型とB型のウイルスです。A型はヒト以外にも、家禽(ニワトリ、アヒル、ウズラなど鳥類の家畜)、ウマ、ブタなど様々な動物に感染します 2), 3)
A型インフルエンザウイルスの電子顕微鏡写真
国立感染症研究所 インフルエンザ診断マニュアル (第 5 版), p4より
インフルエンザとは
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面のタンパク質であるヘマグルチニン(H1~H18の18種類)と、ノイラミニダーゼ(N1~N11の11種類)の組み合わせによって、さらに亜型(サブタイプ)に分類されます 5)。これらの亜型はほとんどがカモなどの水鳥から見つかっています 2), 3)。さらに、ヘマグルチニンH17、H18やノイラミニダーゼN10、N11がコウモリから見つかっています 4)。A型インフルエンザウイルスでは、同一の亜型内でもその抗原性が少しずつ変化しており、毎年のように流行を繰り返します。また、十〜数十年に一度の頻度でこれまで流行している亜型とは抗原性が大きく異なる新型のウイルスが出現し、世界的な大流行(パンデミック)を引き起こすことがあります 4), 6)
一方、B型インフルエンザウイルスは、A型のような新型ウイルスの出現はみられていません 7)。B型インフルエンザウイルスは、亜型には分類されず、B / Yamagata系統とB / Victoria系統と呼ばれる2つの主要な群(系統)に分けられています 5)
A型・B型インフルエンザの流行には通常、季節性があり、国内では例年12月~3月に流行し、短期間で多くの人に感染が拡がります 1)。例年の季節性インフルエンザの感染者数は国内で推定約1,000万人とされます 7)

インフルエンザの症状

インフルエンザでは、インフルエンザウイルスに感染してから通常 1~3 日間ほどの潜伏期間の後、38℃以上の発熱・頭痛・全身の倦怠感・筋関節痛などが突然現われ、咳・鼻汁などの上気道炎症状がこれに続きます。合併症として、高齢者では肺炎・気管支炎を起こしやすく、小児ではこれらの合併症に加えて中耳炎を起こしやすく、気管支喘息を誘発することもあります 4), 7)
もし、インフルエンザが疑われる症状に気づいたら、できるだけ早く医療機関で診察を受けましょう 7)

インフルエンザとかぜの違い

インフルエンザとかぜ(普通感冒)はどう違うのでしょう。一般的に、かぜはさまざまなウイルスなどによって起こる病気です。その症状はのどの痛み、鼻汁、くしゃみ、咳などが中心で、強い全身症状はあまりみられません 7) 。発熱もインフルエンザほど高熱とならず、重症化することはあまりありません 7)
一方、インフルエンザはインフルエンザウイルスに感染することで起こる病気です。症状として、普通のかぜのようなのどの痛み、鼻汁、咳などの症状もみられますが、38℃以上の高熱、頭痛、全身の倦怠感、筋関節痛などが比較的急速に同時に現れる特徴があります 7) 。また、小児ではまれに急性脳症を、高齢者や免疫力の低下している人では肺炎を伴うなど、重症になることがあります 7)
インフルエンザとかぜの違い

 

インフルエンザ

かぜ

発病

急激

ゆるやか

発熱

通常38℃以上の高熱

ないか、あっても高熱は少ない

強い全身症状※1

ある

ないか、あってもおおむね軽度

上気道炎症状※2

全身症状に続いて出現が多い

最初からみられる 

強いことが多い

軽いことが多い

  1. ※1
    :悪寒、頭痛、全身の倦怠感、筋関節痛など
  2. ※2
    :のどの痛み、咳、鼻汁など
参考:首相官邸|インフルエンザ(季節性)対策(外部サイト)
Eccles R. Lancet Infect Dis. 2005, 5(11), 718–725.

インフルエンザのハイリスクグループとは

次のような方は、インフルエンザにかかると重症化しやすいといわれるハイリスクグループにあてはまります。

インフルエンザが重症化しやすい持病
  • 呼吸器系(喘息・慢性肺疾患)
  • 循環器系(心不全)
  • 血液疾患
  • 肝臓・腎臓病
  • 代謝障害(糖尿病やミトコンドリア病など)
  • 神経学的疾患、神経発達障害
インフルエンザが重症化しやすい方々
  • 5歳未満(特に2歳未満)のお子さん
  • 65歳以上の方
  • 妊娠中、または産後の方
  • アスピリンを服薬中の方
  • 肥満の方
  • 介護施設に入居中の方

新型インフルエンザの世界的な大流行(パンデミック)の脅威

A型インフルエンザはその原因となるA型インフルエンザウイルスの抗原性が小さく変化しながら、毎年世界中のヒトの間で流行しています 7) 。これが季節性インフルエンザです。
一方、新型インフルエンザは、時としてその抗原性が大きく異なるインフルエンザウイルスが現れ、多くのヒトが免疫を持たないために急速に感染が拡がります 7) 。国内で新型インフルエンザが流行すれば、国民の生命、健康、医療体制、生活、経済に大きな影響を与えかねません。

世界的な大流行(パンデミック)

20世紀に世界的な大流行(パンデミック)を起こした新型インフルエンザは、大正7~8(1918~1919)年のスペインインフルエンザ[原因ウイルスはA(H1N1)亜型]、昭和32~33(1957~1958)年のアジアインフルエンザ[原因ウイルスはA(H2N2)亜型]、昭和43~44(1968~1969)年の香港インフルエンザ[原因ウイルスはA(H3N2)亜型]の3つです。このうちスペインインフルエンザによる死亡者数は全世界で2,000万人~4,000万人と言われ、日本でも約40万人の犠牲者が出たと推定されています 1)
今世紀に入ってからは、平成21~22(2009~2010)年に新型インフルエンザ[原因ウイルスはA(H1N1)pdm2009亜型、「pdm」はパンデミック]が発生しました 1)
これらのインフルエンザは、パンデミックの結果、多くの国民が免疫を持つようになり、現在では季節性インフルエンザとして流行し、特別に取り扱われることはありません 7)
世界的な大流行(パンデミック)

インフルエンザの予防

インフルエンザの流行は主に冬季に起こります。
その年に流行するインフルエンザは毎年予測され、予防接種のためのワクチンが作られます。予防接種でインフルエンザウイルスの感染を完全に予防することはできませんが、インフルエンザにかかる人や、重症化する人を減らせます 1)
なお、現在日本で使われているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンといって、インフルエンザウイルスの感染力を失わせて人が免疫を作るのに必要な成分だけを取り出して作ったものです。インフルエンザワクチンには感染力がないので、予防接種によってインフルエンザを発症することはありません。
インフルエンザワクチンは、13歳未満では2回接種します。13歳以上では原則1回接種ですが、患者さんの状況等によって医師の判断により2回接種が勧められる場合があります 1)

日常生活の中でできる予防法

日常生活の中でインフルエンザを予防することも大切です。

通常のインフルエンザウイルスや新型インフルエンザウイルスの感染は、咳やくしゃみによる飛沫や接触によってウイルスが体内に入ることで起こります 7)。そこで、普段からウイルスが体内に入るのを防ぐようにしましょう。
  • 飛沫感染……感染している人の咳・くしゃみにより発生した飛沫を吸い込む
  • 接触感染……感染した人が触った直後のドアノブなどに触り、そのまま鼻や口に触る
予防法7)
  • 普段から健康管理をし、十分に栄養と睡眠を取って抵抗力を高めておきましょう。
  • 人が多く集まる場所から帰ってきたときには手洗いを心がけましょう。
  • アルコールを含んだ消毒液で手を消毒するのも効果的です。
  • 咳エチケットを行いましょう。
日常生活の中でできる予防法_予防法

咳エチケット

インフルエンザの感染を予防するための「咳エチケット」とは、咳やくしゃみに含まれているかもしれない病原体(感染の原因物質)が、周囲に飛び散らないように気をつけることです 8)
咳やくしゃみをするときに気をつけること8)
  • 他の人から顔をそらしましょう。
  • ティッシュなどで口と鼻を覆い、使用後のティッシュは捨てましょう。
  • 咳、くしゃみが出ている間は積極的にマスクを着用しましょう。
咳エチケット

インフルエンザの検査

インフルエンザの検査法として、現在、医療機関では「迅速抗原検出キット」を使う検査が行われていま す。鼻やのどの粘液を綿棒でぬぐった液や、鼻水(鼻かみ液)をキットを用いて検査すると、感染があるかどうかや感染しているウイルスの型が短時間でわかります。5分程度で結果が分かるキットもあります 9)
ただし、症状が出る前のウイルス量が少ない時期に検査した場合や、検査する材料の採取がうまくいかなかった場合は、感染していても陽性にならないことがあります 4)

インフルエンザの治療

インフルエンザの主な治療法は、抗インフルエンザウイルス薬の使用です。抗インフルエンザウイルス薬は、インフルエンザ発症から48時間以内に使用すると、ウイルスの増殖を抑えて、発熱などの症状が消えるのを早めたり、体外に排出されるウイルスの量を減らすなどの効果があります 1)

それ以外には、症状を和らげる治療として高熱には解熱剤、咳には鎮咳薬(せきどめ)、たんがひどい場合は去痰薬(たんを切れやすくする)などが使われることがあります。

また、従来から行われてきた対症療法もやはり大切です。例えば、からだを温かく安静に保つことは、免疫力を高めるのに有効です。また、水分をこまめにとることは、熱のせいで脱水状態になるのを防ぐために、とても大事です 9)

抗インフルエンザウイルス薬が処方されたら

現在日本で一般的に使われている抗インフルエンザウイルス薬には、飲み薬(2種類)、吸入薬(2種類)、点滴注射薬(1種類)があり、それぞれ用法・用量、期間(何日間の服用が必要か)が異なります 1)。症状が出始めてからの時間や、病状によって、医師は一人ひとりの患者さんを診て抗インフルエンザウイルス薬を使用するかどうかを判断します。必ず医師の指示に従ってください。

家族がインフルエンザにかかったときは

同居している家族がインフルエンザにかかったときは、以下のことに注意して看護してください。

患者さんを見守るポイント

インフルエンザの治療を受けた後でも次のような症状がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。また、それ以外でも、いつもと様子が違って心配な場合は医療機関に相談してください。

医療機関を受診する前には電話で連絡し、受診時間や入り口等を確認してください。受診するときはマスクを着用し、咳エチケットを心がけるとともに、公共交通機関の利用はできるだけ避けましょう。
小児の場合8)
  • 手足を突っ張る、がくがくする、眼が上を向くなど、けいれんの症状がある。
  • ぼんやりしていて視線が合わない、呼びかけに答えない、眠ってばかりいるなど、意識障害の症状がある。
  • 意味不明なことを言う、走り回るなど、いつもと違う異常な言動がある。
  • 顔色が悪かったり(土気色、青白い)、唇が紫色をしている。
  • 呼吸が速かったり(1分間に60回以上)、息苦しそうにしている。
  • ゼーゼーする、肩で呼吸をする、全身を使って呼吸をするといった症状がある。
  • 「呼吸が苦しい」、「胸が痛い」と訴える。
  • 水分が取れず、半日以上おしっこが出ていない。
  • 嘔吐や下痢が頻回にみられる。
  • 元気がなく、ぐったりしている。
  • 症状が長引いて悪化してきた。
成人の場合8)
  • 呼吸困難または息切れがある。
  • 胸の痛みが続いている。
  • 嘔吐や下痢が続いている。
  • 症状が長引いて悪化してきた。

インフルエンザ脳症の症状がみられたら

インフルエンザ脳症は、インフルエンザを発症した後に重度の中枢神経症状をともなう急性脳症を発症する病気で、小児に多いとされています 10)。 流行状況にもよりますが、年間100~300人にインフルエンザ脳症が発生し、死に至ることもあります 11)
インフルエンザの症状に加えて意識障害(呼びかけに答えないなど)、意味不明の言動、けいれんといった症状が現れますので、このような症状がみられたら、速やかに医療機関を受診してください 12)。また解熱剤によっては、インフルエンザ脳症を起こしやすくすることがあるため、解熱剤の使用については医師に相談してください 9)
インフルエンザ脳症における異常言動・行動の例 12)
  • 両親がわからない、いない人がいると言う(人を正しく認識できない)。
  • 自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない。
  • アニメのキャラクター・象・ライオンなどが見える、など幻視・幻覚的訴えをする。
  • 意味不明な言葉を発する、ろれつがまわらない。
  • おびえ、恐怖、恐怖感の訴え・表情。
  • 急に怒りだす、泣き出す、大声で歌いだす。
インフルエンザ脳症の症状がみられたら

異常行動による事故を防ぐために

インフルエンザでは、インフルエンザ脳症とは別に、異常行動がみられることがあります。特に、就学以降の小児・未成年者で報告が多く、発熱から2日以内に発現することが多いといわれています 13)
極めてまれなことですが、異常行動の結果、転落等による死亡事故が起こる場合があります 1)
異常行動は抗インフルエンザ薬が使用されていなくても報告されていますので、発熱から少なくとも2日間は、自宅で小児・未成年者が容易に住居外へ飛び出さないために、対策を講じましょう 13)
異常行動の例 13)
  • 突然立ち上がって部屋から出ようとする。
  • 興奮して窓を開けてベランダに出て、飛び降りようとする。
  • 人に襲われる感覚を覚え、外に走り出す。突然笑い出し、階段を駆け上がろうとする。
  • 自宅から出て外を歩いていて、話しかけても反応しない。
  • 変なことを言い出し、泣きながら部屋の中を動き回る。
異常行動による事故を防ぐために

異常行動による転落などの事故を防ぐために、次のような対策を取ってください。

対策の例 13)
  • 玄関や全ての部屋の窓を確実に施錠する(内鍵、チェーンロック、補助錠がある場合は、その活用を含む)。
  • 窓に格子のある部屋がある場合は、その部屋で寝かせる。
  • ベランダに面していない部屋で寝かせる。
  • 一戸建てにお住まいの場合は、できる限り1階で寝かせる。

インフルエンザの診断から登校や出勤を再開するまで

小児の場合

学校保健安全法施行規則第19条において、インフルエンザ(特定鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)に罹患した場合、学校や園への出席停止の期間の目安は「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」となっています 14)

ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めたときは、この限りではありません。出席停止の期間は、各学校・園によってそれぞれに定められている場合もありますので、詳しくは、各学校・園にお問い合わせください。

インフルエンザの出席停止期間
インフルエンザの出席停止期間
学校保健安全法施行規則より作図

成人の場合

成人には、インフルエンザと診断されてからの出勤再開に関して特に決まりはありません。しかし、一般的にインフルエンザ発症後7日目でも鼻やのどからウイルスを排出している可能性があるため、たとえ発熱等の症状がなくなっていても他の人にうつすことはあるので外出には注意が必要です 1)
基本的に、発熱がなくなってから2日目までが外出自粛の目安です。しかし、完全に他の人にうつさなくなる時期は明らかでないため、業務上可能であれば、発症した日の翌日から7日を経過するまで外出を自粛することが望ましいと考えられます。 

インフルエンザをしっかり予防して、かからないように気をつけましょう。

ただし、きちんと予防をしていてもインフルエンザにかかってしまうことがあります。

早期治療を心がけ、インフルエンザが疑われるときはできるだけ早く医療機関で診察を受けましょう。

同居している家族がインフルエンザにかかった時は、家庭内での感染を防ぐことも非常に重要です。

参考資料

1)厚生労働省|インフルエンザQ&A(外部サイト)

2)内閣官房新型インフルエンザ等対策室|鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス(外部サイト)

3)Wright PF, Neumann, G., and Kawaoka, Y., editor (2007) Orthomyxoviruses. Fields Virology, 5 th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins. 1691-1740 p.

4)国立感染症研究所|インフルエンザ診断マニュアル(5版)

5)厚生労働省検疫所FORTH|季節性インフルエンザ(ファクトシート)(外部サイト)

6)国立感染症研究所|インフルエンザとは(外部サイト)

7)首相官邸|インフルエンザ(季節性)対策(外部サイト)

8)厚生労働省|インフルエンザ一問一答 みんなで知って、みんなで注意!

9)一般社団法人日本臨床内科医会|わかりやすい病気のはなしシリーズ33インフルエンザ

10)国立感染症研究所|インフルエンザ脳症について(外部サイト)

11)国立感染症研究所|インフルエンザ脳症の新しい治療法について(外部サイト)

12)日本小児神経学会 「新型インフルエンザ等への対応に関する研究」班:インフルエンザ脳症の診療戦略,2018

13)厚生労働省|異常行動による転落等の事故を防ぐためのお願い(患者さん・ご家族・周囲の方々へ)

14)学校保健安全法施行規則第19条

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