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不眠症
不眠症-眠れなくてお悩みの方、また不眠で悩んでいる人の周囲の方へ
不眠症にはさまざまな治療法があります。また、別の病気に伴って不眠が出現することもあります。ご自身や周囲の方の不眠症状について心配事があるようでしたら、医療機関にご相談ください。
このページでは、代表的な不眠症の症状や原因を紹介していきます(なお、脳に外傷を負った後などに出現する不眠症は除きます)。
監修:久留米大学 学長 内村 直尚 先生
睡眠はなぜ大切?
私たちは人生の3分の1を眠ってすごします。1)からだとこころをしっかり休ませるには、質の高い睡眠をきちんととることが重要です。1)
睡眠がもたらす作用は休養だけではありません。からだとこころの機能、例えば記憶や気分の調節、免疫機能の増強などに関連しているとされます。1)
正常な睡眠がとれるということは、睡眠のメカニズムがうまく働いていることを意味します。睡眠のメカニズムを理解するには、日々の生活を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。2)
起きる時間と寝る時間は人それぞれ、ほぼ決まっていることが多いと思います。これは、からだにある「体内時計」の影響を受けていることを意味します。2)
加えて、夜更かしなどで睡眠時間が短くなると、次の日は昼間から眠くなってしまい、夜の睡眠時間が長くなり、深い睡眠の時間も増えてしまいます。反対に、昼寝の時間を取りすぎると今度は夜眠りにくくなります。つまり、私たちのからだは睡眠を一定量確保しようと調節するのです。2)
このように睡眠には、「体内時計」と「一定の睡眠量を取ろうとすること(恒常性維持といいます)」という2つのメカニズムが働いています。2)
しかし、さまざまな原因でこの睡眠のメカニズムが機能しなくなると不眠症につながることがあります。よく知られている原因はストレス、からだやこころの病気、薬や刺激物、生活リズムの乱れ、環境などです。3)
では、不眠症では具体的にどのような症状が現れるのでしょうか。
- ※厚生労働省: e-ヘルスネット[情報提供] 不眠症(三島和夫 著). https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html [2023年2月28日アクセス]を参考に作成
不眠症(睡眠障害):3つの不眠症状と日常生活の支障がポイント
不眠症状には、寝床に入っても眠れない「入眠困難」、夜中に目が覚めてしまう「中途覚醒(睡眠維持困難)」、早い時間に目が覚めてしまい、もう一度寝つくことができない「早朝覚醒」の3タイプがあります。4,5)
医師が「不眠症」と診断するときは、症状だけではなく、生活に悪影響が出ていることもポイントになります。不眠症状が続いていることに加え、日中に集中力や食欲が下がったり、倦怠感があったり、意欲が出なかったりすると、不眠症が疑われます。3)
しかし、不眠症になったとしても、さまざまな対処法・治療法があります。
- ※American Academy of Sleep Medicine 著. 日本睡眠学会 診断分類委員会 訳: 睡眠障害国際分類 第3版. 東京, ライフ・サイエンス, 2018, pp.3-4. および睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会 内山真 編: 睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版. 東京, じほう, 2019, pp.164-166. を参考に作成
不眠に効果的なセルフケア
不眠は誰もが体験しうることであり、対応方法もいろいろあります。
厚生労働省が作成した「健康づくりのための睡眠指針2014」の中には、「睡眠12箇条」があります。6)
まずは、ご自身の睡眠習慣と照らし合わせて、もし問題が見つかるようでしたら直してみましょう。
なお、家でいろいろ試してみても不眠が治らない場合は、からだやこころの病気などが原因となっている可能性もありますので、医療機関に相談することをお勧めします。
【健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~】
- ※厚生労働省健康局: 健康づくりのための睡眠指針2014. 2014年3月. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf [2023年2月28日アクセス]
医療機関での治療
不眠症の治療では、症状と日常生活への支障について丁寧に確認したうえで、原因に合わせた治療をしていきます。3)
不眠を引き起こす原因がからだやこころの病気だった場合は、まずその病気の専門機関で治療することが大切です。3)
ほかに原因のない不眠症の治療には、薬を使わない治療(非薬物療法)と薬を使う治療(薬物療法)があります。症状や状況に応じて最も適切な治療法を医師が選択します。両方を併用する場合もあります。7)
■ 薬を使わない治療(非薬物療法)
薬を使わない治療には、睡眠衛生指導や不眠症に対する認知行動療法(CBT-I*)があります。7)
*CBT-I:cognitive behavioral therapy for insomnia
睡眠衛生指導(+をクリックすると説明が開きます)
睡眠衛生指導とは、患者さんの睡眠に関する問題を解消して、質の高い睡眠が確保できるよう、入眠手法や睡眠環境を整えるための生活指導を行うことです。5,7)
具体的な指導内容は表のようなものです。
【睡眠衛生のための指導内容】
- ※厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ作成: 「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」. 2013年10月改訂.
不眠症に対する認知行動療法(+をクリックすると説明が開きます)
不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)は、米国では、ずっと続いている不眠症に対して最初に用いる治療(第一選択)とされており、からだやこころの病気による不眠症にも効果があるとされています。5,8,9)
CBT‒I では、まず不眠の原因となっている生活・睡眠習慣を明らかにします。10)
例えば、寝床で横になると同時に「寝られないこと」への不安が高まると、寝床に入ることでかえって眠れなくなることがあります。11)
別の例では、眠れないために時刻を頻繁に確認するようになり、かえって不安や眠れないことへの心配が続く原因になってしまうことがあります。11)
- ※日本睡眠学会教育委員会 編: 不眠症に対する認知行動療法マニュアル. 東京, 金剛出版, 2020, pp.12-14.より作成
このような状態をCBT-Iで修正することで、睡眠改善につながる生活習慣を身につけられるようにしていきます。10)
一般的には、対面式のセッションが中心になります。治療者と患者さんが1対1で行うもの、集団で行うものがあります。原則として1回50分の面接を4~6回程度実施し、話し合ったことを日常生活で実践していきます。そして、実践したことが効果的かどうか確かめながら治療を進めます。11)
CBT-Iにはさまざまな方法があり、組み合わせることで効果がより大きくなるとされています。5)
また、CBT-Iと薬を使う治療を組み合わせることもできます。その際には薬を使う治療のみの場合と比較して、治療の効果が長く続くとされています。5)
【CBT-Iによる治療法】
- ※岡島義: 心身医. 2018, 58(7), 616-621. および睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会 内山真 編: 睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版. 東京, じほう, 2019, pp.145-151. を参考に作成
■ 薬を使う治療(薬物療法)
不眠症を改善するために用いられるのは睡眠薬です。不安や緊張を和らげる薬、体内時計の調節にかかわる薬、起きている状態を保つ脳内物質の効果を低下させる薬などがあります。5,7)
薬は患者さんの状態に合ったものが選ばれます。どのようなタイプの薬が自分に合っているのか、医師とよく相談するようにしてください。7)
GABA受容体作動薬(+をクリックすると説明が開きます)
不安や緊張を和らげる働きをもつGABA(ガンマ‐アミノ酪酸)という神経伝達物質の作用を強めることで、不眠症状を改善する薬です。5)
GABA受容体作動薬は、構造の違いによってベンゾジアゼピン系の薬と非ベンゾジアゼピン系の薬に分けられますが、いずれもGABAの作用を強めるという点では同じです。5)
また、これらは薬の効果が現れるまでの時間によって、超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型に分かれており、不眠のタイプによって使い分けられます。7)
メラトニン受容体作動薬(+をクリックすると説明が開きます)
メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、体内時計の調節を行っています。
メラトニン受容体作動薬は、脳内のメラトニン受容体に作用して、睡眠と起きている状態のリズム調整を行うことで、入眠を促進し、睡眠を維持する薬です。5)
オレキシン受容体拮抗薬(+をクリックすると説明が開きます)
起きている状態を維持することにかかわるオレキシンという神経伝達物質の活動を低下させることで、入眠の促進と睡眠維持をもたらす薬です。5)
不眠症は、原因を探して治療することでよくなることが期待できる病気です。3)
治療を途中で突然やめたり、またお酒などに頼ろうとしたりせず、医師と相談しながら治療を続けていきましょう。
- Q1 不眠症では、どの診療科に相談すればよいのですか。
- Q2 不眠症の診察・検査はどのようなことが行われますか。
- Q3 睡眠薬に怖いイメージがあるのですが。
- Q4 睡眠薬は、ずっと飲み続けるのですか。
1) 厚生労働省: e-ヘルスネット[情報提供] 健やかな眠りの意義(三島和夫 著). https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-001.html [2023年2月28日アクセス]
2) 滋賀医科大学睡眠学講座 編: 睡眠学概論. 滋賀, 滋賀医科大学睡眠学講座, 2010, p.16.
3) 厚生労働省: e-ヘルスネット[情報提供] 不眠症(三島和夫 著). https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html [2023年2月28日アクセス]
4) American Academy of Sleep Medicine 著. 日本睡眠学会 診断分類委員会 訳: 睡眠障害国際分類 第3版. 東京, ライフ・サイエンス, 2018, pp.3-4.
5) 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会 内山真 編: 睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版. 東京, じほう, 2019, pp.66-74,104-108, 121-125, 145-151, 161-166, 258-267.
6) 厚生労働省健康局: 健康づくりのための睡眠指針2014. 2014年3月. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf [2023年2月28日アクセス]
7) 厚⽣労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ作成: 「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」. 2013年10月改訂, pp.5-9, 14-16, 34.
http://jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf [2023年2月28日アクセス]
8) Sateia MJ, et al. J Clin Sleep Med 2017; 13: 307‒349.
9) Qaseem A, et al. Ann Intern Med 2016; 165: 125‒133.
10) 岡島義: 心身医. 2018, 58(7), 616-621.
11) 日本睡眠学会教育委員会 編: 不眠症に対する認知行動療法マニュアル. 東京, 金剛出版, 2020, pp.12-14.
12) 日本認知療法・認知行動療法学会: 認知行動療法の発展. http://jact.umin.jp/ryouhou_hatten/ [2023年4月7日アクセス]