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厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」1)

厚生労働省は、最新の科学的知見に基づき、2014年の指針を見直し、2024年に「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」(以下、睡眠ガイド)を公表しました。1)
日常的に質(睡眠休養感)・量(睡眠時間)ともに十分な睡眠を確保することで心身の健康を保ち、生活の質を高めることは非常に重要です。1)

図表・イメージ:睡眠問題の慢性化

発症リスク上昇・症状悪化などにつながる状態・病気

  • 肥満1,2)
  • 心疾患1,5)
  • 高血圧1,3)
  • 脳血管障害1,6)
  • 2型糖尿病1,4)
  • うつ病などの精神疾患1,7)
文献 1)を参考に作成

日本人の睡眠時間

日本で1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性37.0%、女性39.9%でした。8)
また、40歳代では男性45.8%、女性44.6%、50歳代では男性46.3%、女性48.0%と、半数近くの人が睡眠時間が6時間未満でした。1, 8)

  • 日本人における睡眠時間6時間未満の人の割合(20歳以上、令和4年度国民健康・栄養調査より作成)
図表・イメージ:日本人における睡眠時間6時間未満の人の割合(20歳以上、令和4年度国民健康・栄養調査より作成)
文献 8)を参考に作成

大切なのは睡眠の質と量

「睡眠ガイド」では、睡眠の質と量を重要課題としています。
図表・イメージ:大切なのは睡眠の質と量

個人差はあるものの、日常的に睡眠休養感の向上ならびに適正な睡眠時間を確保し、心身の健康を保つようにすることが大切です。1)
特に、睡眠休養感の低下はさまざまな病気や死亡リスクなど、健康状態の悪化に関わることがわかっています。1)
睡眠休養感を高めるためには、睡眠環境、生活習慣、嗜好品のとり方などを見直し、可能な範囲で改善するとともに、慢性疾患の早期発見・早期治療に努めることが大切です。1)

  • 1)厚生労働省, 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会: 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 令和6年(2024年)2月. pp.1,7,13.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html [2024年11月1日アクセス]
  • 2)Häusler N, et al. Sleep 2019; 42(6): zsz077.
  • 3)Wang D, et al. Sleep Med 2017; 40: 78-83.
  • 4)Reutrakul S, Van Cauter E. Metabolism 2018; 84: 56-66.
  • 5)Korostovtseva L, et al. Sleep Med Clin 2021; 16(3): 485-497.
  • 6)Chaudhry R, et al. Eur J Anaesthesiol 2020; 37(8): 688-695.
  • 7)Li L, et al. BMC Psychiatry 2016; 16(1): 375.
  • 8)厚生労働省: 令和4年国民健康・栄養調査結果の概要. p.18.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001296359.pdf [2024年11月1日アクセス]

睡眠の質・量から考える、年齢別の快眠ポイント

必要な睡眠時間は年齢や季節によって異なるため、「睡眠ガイド」では、成人・こども・高齢者に分けて推奨されています。1)
ここでは、それぞれの年代で推奨されている睡眠の質と量について整理し、ポイントを比べてみましょう。
特に睡眠の量(睡眠時間)には違いがみられます。

推奨事項

解説
睡眠の質
  • 睡眠の不調・睡眠休養感の低下がある場合は、生活習慣などの改善を図ることが重要。病気が潜んでいる可能性にも留意する。
  • 食生活や運動などの生活習慣・睡眠環境を見直して、睡眠休養感を高める。
睡眠の量
  • 適正な睡眠時間には個人差はあるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する。

文献 1)を参考に作成

日常生活のさまざまな事柄が睡眠に影響を与えています1)

睡眠時に重要な物理的な環境として、「光」「温度」「音」の3つが挙げられます。
いずれの要素も考慮した寝室環境を整えることが、良い睡眠につながります。

ポイント
  • 就寝の2時間程前から睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が始まる。
    それ以降に照明やスマートフォンの強い光を浴びるとメラトニンの分泌が抑制されることで、睡眠・覚醒リズムが遅れてしまい、入眠が妨げられる。1, 2)
  • 近年の照明器具やスマートフォンにはLEDが使用されており、体内時計への影響が強い短波長光(ブルーライト)が多く含まれている。1)
温度
  • 人間の深部体温(脳や臓器などといった身体内部の温度)は、約24時間周期で変動しており、日中の覚醒時には上昇し、夜間の睡眠時には低下する。1, 3)
    就寝前に手足の皮膚血流が増加することで体温が外部に放たれ、深部体温が低下し、入眠しやすい状態になる。1,4)
  • 就寝前に体を温めることで、就床から入眠までの時間が短縮する。1, 5)
  • 睡眠中も、聴覚からの刺激は脳に伝達されて、自律神経系やホルモン分泌に影響する可能性がある。1, 6)
  • 睡眠中の騒音によって覚醒頻度が増加し、深い睡眠が減少すると考えられている。1, 7)

規則正しい生活習慣は睡眠の質を高めます。
日中の活動と夜間の休息・睡眠のメリハリをつけることが大切です。

ポイント
運動
  • 睡眠は日中の身体活動などで消耗した体力などの回復の役割も担うことから、日中の身体活動量・強度が、眠りの必要量や質に影響する。1)
  • 就寝前1時間以内の激しい運動は睡眠を妨げる可能性がある。1, 8)
食事
  • 朝食は体内時計の調整に寄与する。1)
  • 就寝前の食事は体内時計を後退させ、1,9)翌朝の睡眠休養感や睡眠の質を低下させる可能性がある。1,10)
就寝前
  • 少なくとも就寝する1時間前にはリラックスし、脳の興奮を抑えることが大切である。1, 11)
  • 睡眠時間や就床時間にこだわり無理に寝ようとすると、かえって脳の興奮が高まる。1, 12)

日常生活において習慣的に摂取する嗜好品の中には、睡眠に影響を及ぼすものがあります。1)
嗜好品は心身のリラクゼーションをもたらす一方、摂取量や時間などによっては睡眠を悪化させ、健康に有害な場合があります。1, 10, 13, 14)

ポイント
カフェイン
  • カフェインは覚醒作用を有するため、寝つきの悪化や中途覚醒の増加、眠りの質を低下させる可能性がある。1)
  • 1日に摂取するカフェインの量が増えるほど、1,15)深い睡眠が減少し、中途覚醒が増え、睡眠効率が低下し、総睡眠時間が短縮するとされている。1,15,16)
  • 1日のどの時点であっても400mgを超えるカフェインを摂取することは、睡眠に悪影響を与える可能性がある。1, 17, 18)
  • むずむず脚症候群1, 19, 20)や睡眠時歯ぎしり1, 13, 21)などの睡眠障害を発生・悪化させるリスクがある。
アルコール
  • アルコールは一時的には寝つきを促進し、睡眠前半では深い睡眠を増加させるが、睡眠後半の眠りの質を顕著に悪化させる。また、飲酒量が増加するにつれて中途覚醒回数が増加する。1, 22)
  • アルコールは体内で二日酔いの原因物質であるアセトアルデヒドという物質に変換される。アセトアルデヒドは強い交感神経刺激作用を持ち、睡眠を阻害する血中のカテコールアミン(興奮性物質)を増加させる。1, 23, 24)
  • アルコールは閉塞性睡眠時無呼吸をはじめとしたさまざまな睡眠障害を増悪させる。1, 25)
ニコチン
  • たばこに含まれるニコチンには覚醒作用があり、睡眠前の喫煙は、寝つきの悪化、中途覚醒の増加、睡眠効率の低下をもたらし、深い睡眠を妨げる。1, 26)
  • 習慣的にニコチンを摂取している人は、入眠困難・中途覚醒・睡眠時間の減少、深い睡眠の減少が著しく、日中の眠気も強いとされる。1, 27)

睡眠は加齢とともに変化しますが、性差もあります。
性ホルモンの影響により睡眠が変化することが知られています。

ポイント
月経周期
  • エストロゲン優位な卵胞期と比較して、プロゲステロン優位となる黄体期では、睡眠が浅くなるとともに、日中の眠気が強まる。1, 28)この傾向は、特に月経前に心身の不調をきたしやすい人でより顕著に現れやすいと考えられている。1, 29)
妊娠中
  • 妊娠するとホルモン分泌パターンが大きく変化する。妊娠初期にはプロゲステロンとエストロゲンの分泌が一時的に低下することで、睡眠が妨げられることがある。1)
  • 妊娠期間を通して、約8割の妊婦は睡眠が不安定になる。1, 30)
  • 妊娠中の睡眠不足や睡眠障害(閉塞性睡眠時無呼吸など)による睡眠の質の低下は、胎児の健康リスクとなる可能性がある。1, 31)
  • 月経周期に関わる女性ホルモン変動と睡眠
図表・イメージ:月経周期に関わる女性ホルモン変動と睡眠

文献 1)を参考に作成

男性・女性を問わず、子育て期や更年期にも睡眠に関する悩みが増えやすい傾向があるため、良質な睡眠確保に対する工夫が必要です。

ポイント
子育て期
  • 赤ちゃんは数時間ごとに寝たり起きたりを繰り返すため、1, 32)その対応で養育者の睡眠も細切れになる。1)
  • 女性の10~20%が産後うつを経験すると報告されており、特に著しい睡眠不足や夜間の中途覚醒が多い人は、産後うつのリスクが高い。1, 33)
更年期
  • 閉経(日本人の平均閉経年齢:50歳頃)の前後5年の約10年間を更年期といい、この期間には睡眠の悩みが増えやすい傾向がある。1)
  • 明確な機序は不明であるものの、女性ホルモンが減少することで、更年期では不眠症や閉塞性睡眠時無呼吸などへの罹患リスクが増大すると考えられる。1)
  • 男性においても、更年期の男性ホルモンの減少34)による睡眠障害について十分な証拠は得られていないが、更年期以降では不眠症などの睡眠障害が増加することがある。また、男性ホルモンの減少は、精神的不調や不眠症状の一因となる可能性がある。1,35)

※男性では、女性と似た更年期症状が40歳代以降どの年代でも起こる可能性がある。
ただし、男性は女性と異なり、更年期症状発症の時期は決まっておらず、期間も終わりがない。36)

ストレスをきっかけとして不眠となることが多く、睡眠不足とともに睡眠休養感の低下をもたらすことがわかっています。

ポイント
ストレスによる
不眠
  • 不眠症はストレスを契機に発症することが多く、睡眠の不足とともに睡眠休養感の低下をもたらす。1, 37, 38)
  • 神経質で生真面目な性格の人はストレスをより強く感じ、不眠にこだわりやすく、不眠症になりやすい。37)

思春期以降、社会人になるまでの時期は、夜ふかし、睡眠不足、休日の朝寝坊が最も生じやすくなります1)

ポイント
夜ふかしの原因
  • 思春期が始まる頃から、睡眠・覚醒リズムが後退し、睡眠の導入に関わるホルモン(メラトニン)の分泌開始時刻が遅れることで、夜寝る時刻が遅くなり、朝起きるのが難しくなる傾向がみられる。1, 39, 40)
  • 部活動や勉強、友人とのつきあい、デジタル機器の使用などで、夜ふかしが生じ、朝は学校に遅刻しないよう起床する必要があるので睡眠不足になりやすくなる。1, 41)
  • 休日は、睡眠不足を解消するために遅い時間に起きることが多くなり、午前中に日光を浴びることができず、睡眠・覚醒リズムが後退しやすくなる。1)

交替制勤務とは、始業時刻と終業時刻が固定されず、勤務時間帯が変化する働き方を指します。1)
交替制勤務は、体内時計の機能に逆らって生活する必要があるため、身体に負担がかかり、さまざまな健康リスクがあることがわかっています。1)

ポイント
交替制勤務
  • 交替制勤務に伴うさまざまな心身の不調には、体内時計が司る睡眠・覚醒リズムと実際の睡眠時間帯のずれ、睡眠不足、徹夜ストレス、その他の心理社会的要因が関与していると考えられている。1, 42)
図表・イメージ:医師
睡眠環境、生活習慣、嗜好品は、ご自身が気をつければ改善につなげやすいと考えられます。
また、交替制勤務に従事している方々で、睡眠に関連する症状が長く続く場合は、不眠症や他の睡眠障害、あるいは不眠をきたす別の病気が隠れているかもしれませんので、医療機関の受診をご検討ください。
  • 1)厚生労働省, 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会: 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 令和6年(2024年)2月.pp.11-19, 23-33, 38-43.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html [2024年11月1日アクセス]
  • 2)Obayashi K, et al. Chronobiol Int 2014; 31(4): 461-467.
  • 3)Czeisler CA, et al. Science 1999; 284: 2177-2181.
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睡眠の質を高めるセルフケア