睡眠・不眠への理解
不眠症と不眠症状
不眠症以外でも、不眠症状が出る病気などがあります1)
不眠症状があっても不眠症ではない?
「不眠症とは?」で、不眠症における3つの不眠症状を説明しましたが、「不眠症状があるから、絶対に不眠症」とは限りません。不眠症は睡眠障害のひとつですが、他の睡眠障害でも不眠症状は出てきます。
また、不眠症状が出てくる別の病気もあります。
不眠症状の陰に隠れた別の病気は、医療機関で診察・検査をすることでわかってきます。不眠症以外の睡眠障害だった場合、治療法が変わります。
「たかが不眠」と思わず、日中の眠気などの症状が継続し、日常生活に影響を及ぼしている場合は医療機関に相談することをご検討ください。
さまざまな不眠
① 症状から、不眠症と間違えられやすい病気
不眠症の症状は、他の病気と間違えられることがあります。
入眠困難
眠れない
不眠症ではなくむずむず脚症候群かも?
むずむず脚症候群1, 2)
“むずむず脚”という病名のとおり、入眠前に安静にしているときから四肢(特に下肢;脚)に「むずむず」「むずがゆい」「不快」「動かしたい」などの感覚が生じて、寝入ることが難しくなる病気です。
脚だけではなく、腕にも何らかの異常な感覚で出ることがあります。
その他に、こむらがえりや歯ぎしりなどが睡眠中・睡眠前後に起きて睡眠を妨げる症状なども含めて「睡眠関連運動障害」ということもあります。
入眠困難
眠れない
不眠症ではなく睡眠・覚醒相後退障害かも?
睡眠・覚醒相後退障害1-3)
社会的に望まれる寝起きのタイミングと、実際の寝起きのタイミングがずれ、社会生活に支障をきたしてしまう睡眠障害を、「概日リズム睡眠・覚醒障害」といいます。
「睡眠・覚醒相後退障害」はこの「概日リズム睡眠・覚醒障害」のひとつで、極端な遅寝遅起きを特徴として、思春期~若年成人に多くみられます。
眠るべきときに眠れず、起きるべきときに起きられないことから、日常生活に支障が生じるうえ、無理に起きても強い眠気や倦怠感といった心身の不調が現れます。
中途覚醒
夜中に目が覚める
不眠症ではなく周期性四肢運動障害かも?
周期性四肢運動障害1, 2)
周期性四肢運動障害では、寝ているときに意識しているわけではないのに四肢(特に下肢;脚)の筋肉が繰り返しピクついてしまい(不随意運動)、目が覚めてしまう病気です。
「むずむず脚症候群」と「周期性四肢運動障害」は、合併している可能性が高いとされています。
中途覚醒
夜中に目が覚める
不眠症ではなく閉塞性睡眠時無呼吸かも?
閉塞性睡眠時無呼吸1, 2)
寝ているときに上気道(鼻~のどの気道)が何らかの理由で完全に/部分的に閉じてしまう病気です。
気道が閉じると呼吸がままならなくなり、血液中の酸素が不足します。
酸素不足の危険を察知した脳が覚醒させて呼吸できるようにしようとするため、目が覚めてしまいます。
早朝覚醒
早朝目が覚める
不眠症ではなく睡眠・覚醒相前進障害かも?
睡眠・覚醒相前進障害1-3)
「睡眠・覚醒相前進障害」も「概日リズム睡眠・覚醒障害」のひとつで、「睡眠・覚醒相後退障害」とは逆に、極端な早寝早起きを特徴として、高齢者に多くみられます。
夕方から眠くなり、深夜から早朝に目覚めてしまうため、周囲の人々の生活と乖離が生じてしまいます。
熟眠困難
日中の眠気
睡眠休養感の低下
不眠症ではなく
周期性四肢運動障害かも?
周期性四肢運動障害1, 2)
周期性四肢運動障害では、寝ているときに意識しているわけではないのに四肢(特に下肢;脚)の筋肉が繰り返しピクついてしまい(不随意運動)、目が覚めてしまう病気です。
「むずむず脚症候群」と「周期性四肢運動障害」は、合併している可能性が高いとされています。
熟眠困難
日中の眠気
睡眠休養感の低下
不眠症ではなく
閉塞性睡眠時無呼吸かも?
閉塞性睡眠時無呼吸1, 2)
寝ているときに上気道(鼻~のどの気道)が何らかの理由で完全に/部分的に閉じてしまう病気です。
気道が閉じると呼吸がままならなくなり、血液中の酸素が不足します。
酸素不足の危険を察知した脳が覚醒させて呼吸できるようにしようとするため、目が覚めてしまいます。
② 睡眠環境・生活習慣・嗜好品が原因の睡眠関連症状
睡眠障害の症状は、病気だけが原因とは限りません。
睡眠環境・生活習慣・嗜好品が原因で、不眠症状、睡眠関連症状が現れることがあります。
これらが原因の場合、快眠への取り組みをご自身で行うことで睡眠関連症状が改善するかもしれません。
詳しくは「睡眠の質を高めるセルフケア」を参照ください。
③ 病気・治療薬が原因の睡眠関連症状
他の病気が原因となる不眠症状
ある病気と別の病気が一緒に存在していることを「併存」といいますが、不眠症と別の病気が併存していることもあります。
それらの一部を紹介します。
不眠症と 関連がある病気 |
解説 |
---|---|
うつ病 |
うつ病の63~90%に、不眠症状が出現するとされています。5) うつ病の診断基準の中に、「ほとんど毎日の不眠または過眠」という項目があります。6) |
不安症 |
一般に、不安が強いと眠れなくなります。 不安症だと、50~90%の患者さんが何らかの不眠を訴えるとされています。7) |
脳卒中 | 脳卒中を起こした後、不眠症状が20~50%の患者さんにみられるとの報告があります。8) |
がん |
がんにおける睡眠障害の有病率は最大で95%と報告されています。1,9) 原因はがんの症状、治療、環境、心理的負担などさまざまです。10) |
上の表の他にも、不眠をきたす病気11)として高血圧や心臓病、呼吸器疾患、腎臓病・前立腺肥大や夜間頻尿12)、糖尿病・関節リウマチや疼痛性障害13)、アレルギー疾患、慢性疲労症候群14)などがあります。
不眠症状が起きる可能性のある薬
また、治療薬の中にも不眠症状を起こしやすいものがあります。その一部を紹介します。15-17)
不眠症状が起きる 可能性のある薬 |
解説 |
---|---|
ステロイド | 覚醒を促す物質の働きを強めます。15-17) |
精神刺激薬 | ドパミン・ノルアドレナリンなど、覚醒を促す神経伝達物質の作用を強めるため、不眠をきたすことがあります。15) |
キサンチン系 気管支拡張薬 |
睡眠を促すアデノシンの作用を弱めます。15-17) |
一部の降圧薬 | β遮断薬などで、不眠が現れることがあります。15, 17) |
一部の免疫強化薬 | インターフェロン製剤で不眠が現れることがあります。15, 17) |
薬による不眠が疑われる場合は、原因と思われる薬の減量や、別の薬への変更を行います。17)
なお、薬による不眠を引き起こしやすい危険因子は「加齢、女性、多剤併用・薬の相互作用、併存疾患」とされています。15)
④ その他の睡眠関連症状
睡眠時随伴症2)
入眠するまでの間や睡眠中、覚醒時に、異常な行動や体験が起きてしまいます。
例えば、寝床を出て歩き回る「睡眠時遊行症」、夢の中での行動が現実の行動として現れる「レム睡眠行動障害」、悪夢を頻繁にみる「悪夢障害」などがあり、いずれも睡眠を妨げます。
不眠で受診するときには、他の病気のことを伝えたり、「おくすり手帳」を持参したりすることも忘れないようにしましょう。
- 1)厚生労働省, 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会: 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 令和6年(2024年)2月.pp.34-37.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html [2024年11月1日アクセス] - 2)American Academy of Sleep Medicine 著. 日本睡眠学会 診断分類委員会 訳: 睡眠障害国際分類 第3版. 東京, ライフ・サイエンス, 2018, pp.26-32, 137-147, 169-175, 190-194, 211-219, 220-225.
- 3)Sack RL, et al. Sleep 2007; 30(11): 1484-1501.
- 4)Aurora RN, et al. Sleep 2012; 35(8): 1039-1062.
- 5)Stewart R, et al. Sleep 2006; 29(11): 1391-1397.
- 6)日本精神神経学会(日本語版用語監修), 髙橋三郎ほか監訳. 染矢俊幸ほか訳: DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル.東京,医学書院, 2023, pp.176-177.
- 7)眞田陸ほか. 精神経誌 2018; 120(7): 577-583.
- 8)長江雄二ほか. 医療 1991; 45(5): 444-450.
- 9)Büttner-Teleagă A, et al. Int J Environ Res Public Health 2021; 18(21): 11696.
- 10)国立研究開発法人国立がん研究センター: がん情報サービス眠れない・不眠~がんの治療を始める人に、始めた人に~.
https://ganjoho.jp/public/support/condition/insomnia/ld01.html [2024年11月1日アクセス] - 11)厚生労働省: e-ヘルスネット[情報提供] 不眠症(三島和夫 著).
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html [2024年11月1日アクセス] - 12)Negoro H, et al. Sci Rep 2023; 13(1): 9495.
- 13)Duo L, et al. Front Psychiatry 2023; 14: 1157790.
- 14)Ferré A. Neurologia(Engl Ed) 2018; 33(6): 385-394.
- 15)坂根直樹. 成人病と生活習慣病 2018; 48(8): 936-940.
- 16)NCCP病院 国立精神・神経医療研究センター: 処方薬の睡眠・覚醒への影響(伊豆原宗人著)
https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sleep-column15.html [2024年11月1日アクセス] - 17)田ヶ谷浩邦. 日薬理誌 2007; 129: 42-46.