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不眠は誰もが体験しうることであり、対応方法もさまざまです。
まずは、ご自身の睡眠習慣と照らし合わせて、もし問題が見つかるようでしたら直してみましょう。
ここでは睡眠の質に基づいたセルフケアのポイントを解説します。

図表・イメージ:睡眠の質、睡眠休養感の向上

適度な運動で睡眠休養感をアップ!

睡眠の質、すなわち睡眠休養感の向上には、適度な運動が大切です。
また、労働や家事などの生活活動も、睡眠休養感の向上に影響します。

生活活動

日常生活における労働、家事、
通勤・通学などの活動

買い物・洗濯・掃除などの家事、犬の散歩、こどもと遊ぶ、運動・通学・階段昇降・荷物運搬・農作業など仕事上の活動

運動

体力の維持・向上を目的に
計画的・意図的に実施する活動

ウォーキング(歩行)などの有酸素運動、エアロビクス、ジョギング、サイクリング、太極拳、ヨガ、スポーツ、筋力トレーニング、余暇時間の散歩

文献 1)より引用

中~高強度の運動は、主観的な睡眠の質、入眠潜時や睡眠時間、睡眠効率を改善します。1, 2)

低強度 家の中で歩く、ストレッチ、ヨガ、洗濯物の片付け、買い物、植物の水やりなど
中強度 歩く(やや速めに)、軽い筋力トレーニング、水中歩行、太極拳、パワーヨガ、ピラティス、掃除機をかける、洗車など
高強度 ジョギング、水泳、エアロビクス、サッカー、登山など

文献 1)より引用

忙しい人が少しずつ運動をする方法として、生活スタイルにマッチした「短い時間での運動」の積み重ねが挙げられます。3-6)
「短い時間の運動」に関連して、厚生労働省は、1日の中で今までより10分多く運動することを勧めています。7)

図表・イメージ:適度な運動で睡眠休養感をアップ!
図表・イメージ:医師
運動習慣がない場合、
少しずつ運動をするようにして、最終的に1日60分程度の運動を習慣にするとよいですよ。1)

朝食も睡眠休養感のために大切

朝食をとると、体内時計を調整することができます。1)
実際、朝食を抜くと、睡眠休養感の低下につながることが調査研究で示されています。8)

図表・イメージ:朝食も睡眠休養感のために大切
図表・イメージ:医師
実は、減塩の食事もポイントです!
日中に摂取した食塩の過剰分は睡眠中に排泄されるため、夜間の排尿回数が増えてしまいます(60歳以上の男性を対象としたデータ)。9)
日頃から減塩を心がけることで夜間頻尿が少なくなり、10)夜中に目覚める回数を減らせる可能性があります。

良質な睡眠のための環境づくりを心がけましょう

睡眠環境の3要素として光・温度・音を取り上げ、環境づくりのコツをお伝えします。
快眠のためには、この3要素を考えた環境づくりが大切です。

図表・イメージ:光・温度・音

アイコン:光

昼夜の覚醒ー睡眠サイクルを整えるコツ

  • 起床時:朝目覚めたら部屋に朝日を取り入れるようにしましょう。光によって体内時計が整い、覚醒度が上がります。1,11)
  • 日中 :できるだけ日光を浴びるように心がけましょう。就寝時の速やかな入眠につながります。1)
  • 夜間 :就寝2時間前頃から、夜間のデジタル機器の使用は控えめにするのがお勧めです。1, 12)
  • 就寝中:照明は消すように心がけ、眼に入る光の量を減らしましょう。間接照明や足元灯を活用するのもお勧めです。1)

アイコン:温度温度

高温時の対応

  • 夏の寝室の室温上昇時に、睡眠時間が短縮し、睡眠効率が低下すると報告されています。1, 13)エアコンを用いて涼しく維持することが重要です。
  • 睡眠中にタイマー設定でエアコンを止めると、暑く湿った外気が室内に入り睡眠を妨げることがあります。14)睡眠中にエアコンの温度や風向きの設定を調節しつつ、できるだけ涼しい環境を維持しましょう。

低温時の対応

  • WHOの住環境ガイドラインで、冬の室温は18℃以上に維持することが推奨されています。1, 15)
  • 就寝前に過ごす部屋の室温が低いと、寝つきが悪くなることが報告されています。1, 16)冬の就寝前はできるだけ温かい部屋で過ごすことが重要です。

アイコン:音

騒音対策

  • カーテンを防音機能があるものに取り換えたり、寝床の位置をできるだけ窓から遠くに移動させることも有効です。1)
  • 十分な防音機能を持った窓や壁の設置を検討してもよいでしょう。1)

就寝前に入浴して、体を温めましょう

温度に関連して、入浴にはリラクゼーション効果があります。
就寝前に、少しぬるめの湯船にゆっくりつかることで、体全体が温まり、血行が促進されます。
寝つきに良い影響をもたらし、睡眠も深くなります。1, 17)

図表・イメージ:就寝前に入浴して、体を温めましょう

カフェイン、アルコール、ニコチンも睡眠に影響を及ぼします

カフェイン

1日400mgを超えると夜眠りにくくなりますので、超えないようにするのがポイントです。1)
夕方以降に摂取すると、夜の睡眠に影響が出る可能性があります。1)
飲料に含まれるカフェイン量は、以下を参考にしてください。

食品名 カフェイン濃度 備考
コーヒー 60mg/100mL 浸出方法:コーヒー粉末10g/熱湯150mL18)
玉露 160mg/100mL 浸出方法:茶葉10g/60℃の湯60mL、2.5分18)
紅茶 30mg/100mL 浸出方法:茶5g/熱湯360mL、1.5~4分18)
煎茶 20mg/100mL 浸出方法:茶10g/90℃の湯430mL、1分18)
ウーロン茶 20mg/100mL 浸出方法:茶15g/90℃の湯650mL、0.5分18)
エナジードリンク
または眠気覚まし用飲料(清涼飲料水)
32~300mg/100mL
(製品1本あたりでは36~150mg)
製品によってカフェイン濃度および内容量が異なる19)

文献1)より引用

アルコール

飲酒量が増えると、中途覚醒の回数が増えてしまいます。1, 20)
夜に大量のアルコールを摂取すること(深酒)はお勧めできません。
また、寝つきをよくするための「寝酒」1, 21)も避けましょう。
習慣的な寝酒は睡眠の質の悪化とも関連しています。 1, 22)
もし、寝酒の原因となる不眠症状がある場合には、医師に相談してみましょう。

図表・イメージ:アルコール

ニコチン(タバコ)

タバコの主な成分であるニコチンには覚醒作用があり、睡眠に悪影響を与えると考えられています。1,23)
従来の紙巻きタバコだけでなく、近年普及してきた加熱式タバコや電子タバコであっても、ニコチンを含有しているものは睡眠に対して同様の影響があると考えられます。1)
また、直接的な喫煙だけでなく、受動喫煙も睡眠に影響を及ぼすことが知られています。 1, 24)
いずれにせよ、喫煙は控えたほうがよいでしょう。

図表・イメージ:ニコチン

ストレスを解消しましょう

ストレスはやすらかな眠りを妨げます。
音楽・読書・スポーツ・旅行など、自分に合った趣味をみつけて上手に気分転換をはかり、ストレスをためないようにしましょう。25)

図表・イメージ:ストレスを解消

女性の身体の働き(月経・妊娠)に関連する睡眠の変化とその対策

月経周期に関連する睡眠変化とその対策

  • 睡眠は月経周期の影響を受けるため、月経周期を記録し、睡眠変化が起こりやすい時期を把握することで、問題を和らげることが期待できます。1)
  • 月経による出血が多くなり貯蔵鉄が少なくなると、むずむず脚症候群が出現・増悪しやすくなることも知られていますので、1,26)鉄分の摂取を心がけましょう。

妊娠中の睡眠変化とその対策

  • 妊娠中はホルモン分泌が大きく変化することで睡眠に影響が出ることを理解し、心配をしないようにしましょう。1)
  • 散歩やストレッチ、気分転換をし、こころとからだをリラックスさせましょう。1)
図表・イメージ:女性の身体の働き(月経・妊娠)に関連する睡眠の変化とその対策

ライフコースに関連する睡眠の変化とその対策

子育て期の睡眠確保とその対策

  • 生後数週間すると赤ちゃんの睡眠は大人の睡眠・覚醒リズムに近くなってきます。1, 27)養育者は、睡眠・覚醒のリズムを確立するためにも、夜は暗くし、昼間は部屋を明るくするとよいでしょう。

更年期の不眠症状とその対策

  • 男女問わず、更年期の不眠症状は、その他の更年期症状の治療を行うことで軽減する可能性がありますので、医師に相談してみましょう。1, 28)

こどもの夜ふかしを習慣化させないために

夜ふかしや朝寝坊の習慣が続くと、極端な遅寝遅起きで社会生活に支障をきたす「睡眠・覚醒相後退障害」という睡眠障害につながります。1)

起床時の日光浴

朝起きる時間を決め、部屋を明るくするようにし、日中は日光を十分に浴びるようにします。
また、週末や休日も普段と同じ時間に起きるようにして日光を浴びます。1, 29-32)

朝食の摂取

朝食をとらないと、睡眠・覚醒リズムの後退を起こすことが報告されています。1, 33)
夜ふかしをすると朝食を抜いてしまい、それがさらに夜ふかしの原因となったり、慢性的な睡眠不足からの肥満やそれに伴う病気につながったりすることもあります。1, 34, 35)

運動習慣の定着

小学生~高校生は1日あたり60分以上からだを動かし、スクリーンタイム(テレビ、ゲーム、スマホなど)は2時間以下にすることが推奨されています 。1, 36)

就寝前のデジタル機器使用は控えめに

寝る直前までデジタル機器を使用すると、体内時計への影響が大きいブルーライトを多く浴びてしまうので、寝つきや睡眠の質の悪化につながります。 1, 37)

図表・イメージ:運動習慣の定着/就寝前のデジタル機器使用は控えめに

交替勤務者における仕事中の眠気対策

交替制勤務とは、始業時刻と終業時刻が固定されず、勤務時間帯が変化する働き方を指します。1)
交替制勤務は、体内時計のリズムに逆らって生活することになるため、身体に負担がかかり、さまざまな健康リスクがあることがわかっています。1)
対策として、仮眠をとるパターン(仮眠する時間帯や仮眠の長さ)は大きく変えず、ある程度一定にしておくことが重要です。

仮眠

0~4時に、仮眠を20~50分間とると、眠気・仕事効率・疲労が改善するとされています。1, 38)

「とりすぎ」ると…

60分以上仮眠をとると、起きた後の強いぼんやり感が強まる可能性があります。1, 39, 40)

図表・イメージ:仮眠

カフェイン

カフェインには注意力やパフォーマンスを改善させる効果があり、夜勤時の眠気に対してカフェインが有効な場合があります。
ただし、カフェインの効果には個人差があります。1, 41)

「とりすぎ」ると…

カフェインを過剰にとってしまうと、睡眠に悪影響を及ぼしかねません。1,41)

図表・イメージ:カフェイン

2つの対策の合わせ技:“カフェイン仮眠”

6名での小さな研究規模ではありますが、コーヒーでカフェインを摂取した後に仮眠すると注意力が改善し、覚醒後のぼんやり感も軽くなる可能性があります。1, 41, 42)

図表・イメージ:医師
もし、これらの対策をしても睡眠の質が改善しない場合は医療機関にご相談ください。
  • 1)厚生労働省, 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会: 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 令和6年(2024年)2月.pp.16, 23-32, 38-43.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html [2024年11月1日アクセス]
  • 2)Kline CE, et al. Sleep Med Rev 2021; 58: 101489.
  • 3)厚生労働省, 健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会: 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. p.10, 令和6年(2024年)1月. https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf [2024年11月1日アクセス]
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  • 7)厚生労働省: 健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド).
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