動画 神経発達症(発達障害)の診断と支援―診断がつかない例も含めて―

神経発達症(発達障害)の診断における考え方と診断がつかない場合、どのように対応していくとよいか解説しています。

【解説・監修】 社会医療法人啓仁会 堺咲花病院 副院長 村上 佳津美 先生

神経発達症(発達障害)の診断

神経発達症(発達障害)であるかどうかを診断するうえでポイントになるのは、その人がもつ特性と生活において困難を感じているかどうかです。

特性による困りごとがあるかどうかは場面や環境によって変わることがあります。

また、診断基準を満たすかどうかは評価をする人によって異なることがあります。1)

加えて、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の両方の特性を併せて持っていて、どちらか明確に診断することが難しい場合もあります。2)

成長の過程を含めて、長い目で経過を見て診断していくことが大切

そのため、医師は、これまでの生育歴や、いつからどのように困っているかなど確認し、時間をかけて理解しながら、診断をつけたり、どのような支援が必要か考えたりしていきます。

成長の過程を含めて、長い目で経過を見ていくなかで、診断していくことが大切で 、一時期の様子だけで診断できるものではありません。3)

診断は時に数年かかることもあります。4)

神経発達症(発達障害):成長の過程を含めて、長い目で経過を見て診断していくことが大切

困りごとに応じた支援を受けましょう

しかし、受診される方の多くは、すでに特性によって生活に困りごとを感じています。

本人の特性を理解してもらえずに、家族や周囲の人から注意・叱責を受けたり、非難を浴びたりすると、自信をなくしてしまい、二次障害が出てくることがあります。

二次障害を防ぐには、周囲の人が特性を理解し、それぞれの人に応じた支援を促すことが重要です。5,6)

医療者やサポートに入る専門職も、まずは特性による困りごとに目を向けてサポートしていくことが多いようです。

 

こうした神経発達症(発達障害)に関する相談やサポートは医療機関だけでなく、教育・福祉の各機関で行っています。

学校や市区町村の福祉関連の課など、身近なところでも受け付けていることがありますので、まずは困りごとを話すくらいの気持ちで、相談を検討されてはいかがでしょうか。

 

医療機関などに相談しながら、生活をしていくうえでの困りごとや、悩みに対してどのように対応していくことができるのか、を考えていくことが大切です。

神経発達症(発達障害)の診断がつかない例

事例1:ADHD(注意欠如・多動症)かどうか診断が分かれる例
  • 村上先生のご経験をふまえた架空の事例です。
  • このような特性を示す方が必ずしもADHD(注意欠如・多動症)とは限りません。

中学3年生の男子生徒の例です。

学校での勉強にはついていけており、人間関係も良好で、運動部の活動も問題なくこなせています。

しかし、テストのときに、自分では正解していると思っていたけれど、間違って書いていたり、一段ずれて答えていたりしたことがあります。

また、登校してから忘れ物に気がついたことがあります。このときは他のクラスの知人に借りて事なきを得ましたが、高校進学後に同じことがあるのではないかと不安に感じています。

こうした例では、不注意がみられるものの、学習や人間関係のつまずきは目立たず、大きな問題が起きているわけではありませんので、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されるかどうか分かれるものと思われます。

事例2:ASD(自閉スペクトラム症)かどうか診断が分かれる例
  • 村上先生のご経験をふまえた架空の事例です。
  • このような特性を示す方が必ずしもASD(自閉スペクトラム症)とは限りません。

中学3年生の男子生徒の例です。

勉強については単純な計算問題などは得意ですが、長い文章題などは苦手です。また読書感想文などは何を書いてよいか思いつかないことが少なくありません。

人間関係においては、学校での友人は多くないものの、同じゲームをする仲間が何人かいます。

しかし、友人と話しているとしばしば「○○君の言うことだから仕方がない」とか「それ他の人には言うなよ」などと言われます。

話し相手にとって気になる表現で話をしているのですが、本人はどこが悪いのかわからないことが頻繁にあります。

また、あまり知らない人と話をしていると、「こちらの言っていることはそうではない」と注意されたり、「そう解釈するのか」と感心されたりすることがあります。

加えて、「そこにこだわるのか」と呆れたように言われたり、話しているときに相手が何となく嫌な顔をしたりするのを感じることもあります。

このような経験から、本人は知らない人とはなるべく話をしないようにしていますが、高校入学にあたって新しい環境に適応できるかが心配です。

こちらの例は、コミュニケーションがうまくいかなかったり、こだわりがあったりしますが、これまでの経験から、うまくいかない状況を避けるように本人が行動して対応しています。そのため、人間関係に大きな問題は生じておらず、現時点ではASD(自閉スペクトラム症)と診断されるかどうか分かれると考えられます。

こうした方々に対しては、現在の状況だけでなく、成長の過程や環境の変化もみながら、長い目で診断や支援を考えていくことが重要です。

 

このような神経発達症(発達障害)と診断されるかどうか分かれる例については、正式な医学用語ではありませんが、当事者の間では『グレーゾーン』とよばれることがあります。

そして、診断がつかないからといって、特性による困りごとや生きづらさが少ないわけではないうえに、理解や支援が得られにくいことについても悩んでいると思われます。7)

診断がつかなくても、支援を受けられることがあります

まずはご家族・周囲の人、または園や学校の先生や職場内、医療関係者など、相談しやすい人に困っていることや不安に感じていることを話してみてください。
困っていることや不安に感じていることを話してみてください

社会的障壁を解消するため、社会の側からさまざまな改善・変更・調整を行うことを合理的配慮といいます。たとえば、学校では、一人一人の状態や教育的ニーズなどに応じて合理的配慮が受けられることがあります。8,9)

職場においても、特性に配慮した合理的配慮が受けられることがあります。10,11)

相談先ではどんなことに困っているのか話してみましょう

「日常生活での不注意が多い」「こだわりがあったり、暗黙のルールを理解できなかったりして、コミュニケーションが苦手」など、診断がなくても、困っていることや不安に感じていることを伝えることはできます。

どのような配慮があると、その困りごとが解決するか、相談に乗ってくれている方と一緒に考えていきます。

 

また、進学や就職などライフステージの変化に伴って、困りごとが大きくなったり、増えたりする場合は、専門家に相談しましょう。

医療・教育・福祉の各機関で専門家の意見を聞きながら、苦手なことは苦手なりに工夫して、得意なことはさらに伸ばしていくことで、自分に合った生活を送ることができるようになります。12)

 

今日より明日、よりよい生活を目指して

勇気を出して相談しても、親身になってもらえないこともあるかもしれませんが、理解を示してくれる人もいます。

大変かもしれませんが、いくつかの相談先、または同じ相談先でも別の人に相談してみることも考えてみてはいかがでしょうか。

また、相談先の各機関では神経発達症(発達障害)のご本人だけでなく、周囲でサポートする方々の話も聞いてくれます。

神経発達症(発達障害)やそのサポートで悩んでいたら、どなたでも各種相談機関をご利用ください。

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【参考】

1) 鷲見聡. 発達障害の謎を解く. 東京, 日本評論社, 2015, pp.36, 137-138.

2) 本田秀夫. 発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち. 東京, SBクリエイティブ, 2018, pp.30-31,38-39.

3) 鷲見聡. 発達障害の謎を解く. 東京, 日本評論社, 2015, p.140.

4) 吉利宗久ら. 岡山大学大学院教育学研究科研究集録 , 2009, 141, 1-9.

5) 本田秀夫. 標準精神医学 第7版(尾崎紀夫ほか編).  東京, 医学書院, 2018, p.389.

6) 国立特別支援教育総合研究所.  発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究 ―二次障害の予防的対応を考えるために― 平成22(2010)年度~23(2011)年度研究成果報告書. 平成24(2012)年3月, p.15.

7) 井上雅彦監修. 発達障害&グレーゾーンの小学生の育て方. 東京, すばる舎, 2020, p.25.

8) 文部科学省. 障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備.

9) 発達障害者支援法(平成十六年十二月十日法律第百六十七号)最終改正:平成二八年六月三日法律第六四号.

10) 厚生労働省. 合理的配慮指針.

11) 厚生労働省. 障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A.

12) 本田秀夫. あなたの隣の発達障害. 東京. 小学館, 2019, p.54.


監修

社会医療法人啓仁会堺咲花病院 副院長 村上 佳津美 先生