WHO(世界保健機関)は、1986年にがんの痛み治療に対して「がんの痛みからの解放」1)を出版しました。この本で推奨された「WHO方式がん疼痛治療法」が多くの医療関係者に紹介され、今日に至るまでがんの痛み治療に広く活用されています。2018年には、更新された内容を伴ったWHOがん疼痛ガイドライン2)が発表されています。
- 1)World Health Organization, “Cancer Pain Relief,” Geneva: World Health Organization; 1986.
- 2)WHO Guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents、Geneva: World Health Organization; 2018.
※がんの痛みは、がんの種類や患者さんの心身状態などによって、さまざまな痛みが出ることがあります。
気になる痛みがある場合には、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。
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早期胃がんの多くは無症状です。みぞおちの鈍い痛みや胸やけ、胃もたれなどがみられることもありますが、これらの症状は胃炎や胃潰瘍など、他の病気でも起こる症状です。がんが進行すると、食事がのどにつかえる、胃の重圧感と吐き気などの症状がみられるようになり、さらに進むと、吐血・下血や、お腹に水がたまり強い腹部の膨満感や腹痛が現れたりすることがあります。
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大腸がんは早期には痛みを自覚することはありません。がんの増大により腸管の内腔が狭くなると便の通過障害により、腹痛や便秘、下痢などが現れることがあります。また、直腸がんでは、がんが周囲の臓器や神経に広がった場合には、お尻、下肢などが痛んだり、しびれたりすることがあります。
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肝臓は痛みを感じる神経がないため、がんができても痛みは出ませんが、がんが大きくなり、肝臓を覆っている被膜が伸びると、右わき腹やみぞおちに鈍い痛みを感じることがあります。このほか、お腹と胸の間にある横隔膜へがんが広がった場合には、右肩に痛みがみられることがあります。
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膵臓は、胃の後ろ側にある長さ20cmほどの細長い臓器で、がんが発生しても早期には症状はほとんど現れません。がんが進行すると、腹痛、下痢や背中の痛みなどが起こることがあります。また、がんが胃や十二指腸へ及ぶと、消化管の狭窄による食べ物の通過障害が起こることがあります。
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肺がんに特徴的な初期症状はありません。がんが進行すると胸や背中が痛むことがあります。胸水がたまると呼吸困難などがみられることがあります。また、肺がんは脳、骨などへ転移しやすく、脳に転移した場合には頭痛、吐き気などが、骨に転移した場合には腰や背中、肩などに痛みがみられることがあります。
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乳がんは多くの場合、初期に痛みを感じることはありません。乳がんは進行すると、乳房周囲のリンパ節や骨、肺、肝臓、脳などの臓器へ転移しやすく、それに伴いさまざまな痛みを呈します。わきの下のリンパ節に転移した場合には、上肢がむくんだり、上肢に向かう神経が圧迫され、上肢のしびれを起こすことがあります。また、骨転移がある場合は、その部位により腰や背中、上肢の痛みや手足のしびれ、骨折などを起こすことがあります。肺への転移では息切れや咳、肝臓では腹部の膨満感や痛みを感じることがあります。
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前立腺がんは早期には自覚症状はほとんどありませんが、がんが大きくなると、尿道を圧迫し、排尿時に痛みを感じたりします。また、がんが尿道をふさぐようになると、水腎症(尿が腎臓から膀胱へ流れず腎臓に溜まった状態)の症状として、背中や腰に痛みが出ることがあります。さらに、前立腺がんは進行とともに骨に転移しやすく、腰痛、坐骨神経痛、わき腹や肋骨の痛みなどがみられることがあります。
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膀胱がんの最初の症状で最も多いのは血尿ですが、一般的には痛みを伴いません。がんが進行し膀胱の周囲に広がると下腹部や尿道口に痛みを感じることがあり、がんの進行・増大により尿路が閉塞した場合には、水腎症により背中や腰に痛みを感じることもあります。
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子宮頸がんは初期の段階ではほとんど症状はありません。がんが進行し、周囲の骨盤内にある臓器(膀胱、直腸、腹膜など)へ広がった場合には、腰痛や背中の痛みをきたすことがあります。腸管浸潤や腹膜炎による腸閉塞に伴う腹痛を来すことがあります。また、肺へ転移した場合には胸に水がたまり呼吸困難がみられることもあります。さらに、がんが進行し、⾻盤内のリンパ節へ広がった場合には、下肢の神経痛がみられることもあります。